みくまり~あの日の言葉呼び起こす

CHAGE&ASKA、ASKAのこと。人生そのものの彼らについてひたすら語る

good time

 

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【汽水域】

川と海、つまり淡水と海水、そして淡水と海水が混じりあうところ。

川が海に入り込む河口部。

 

この汽水域という言葉を知った数年前。

知り合いの作家さんがこれをタイトルに個展をした際に

「夢とうつつ、あの世とこの世の汽水域」

とDMに書いていたのがとても印象的だった。

はっきりとした境目があるのではなく

ぼんやりと混じりあったところ…

 

ずっとこの「ぼんやり」感を抱いていた曲が「good time」だった。

悪い意味のぼんやりではなく、

輪郭がはっきりしない、

どこという場所でもない中を揺蕩う心地よさである。

 

ASKAさんは度々、生まれ変わりや輪廻をテーマにした曲を書いている。

 

good time歌詞  http://j-lyric.net/artist/a001d20/l000ab6.html

 

youtu.be

 

初めてそんなことを作品にしたのはオンリーロンリーにある「生誕の情景」だろうか。

生まれる直前の記憶があるのだという。

その記憶を散文詩にしたものだ。

 

それから時は経ち、1990年の「See ya」のアルバムの中に

「水の部屋」という作品がある。

「水の部屋」とは「母の胎内」のこと。

鮮明に残っているという子どもの頃の記憶と絡めながら

そこからきて、そこへまた帰っていくという

はっきりと輪廻をテーマにした優しく美しい歌だ。

 

そこからもしばらくはこの手のものを

明らかにテーマにした曲はなかったように思う。

(kicksの「同じ時代を」は輪廻ではないが、

「good time」に繋がるテーマがあるとは思う)

 

「水の部屋」から約10年経った2000年7月

ソロ8作目のシングルとして発表された「good time」

シングルとしてはちょっと地味な印象だった。

ID、ONE、Girlときてのこの曲だ。

実際プロモーションがうまくいかなかったことを

彼の著書700番で書いている。

でも当時からすごく好きだったし、

世の中に切り込んでいくようなインパクトなどよりも

じんわり沁みてくる名曲だと思った。

ただ、リリース当時はまだこの曲の良さを深くはわからなかったんだと思う。

自分が歳を重ねるにつれて、ますますいい曲だと思うようになった。

この曲を作ったASKAさんの歳に近づいたせいか

そのじんわり効いてくるこの曲の味わいがわかるようになったのかもしれない。

ここのところ毎日聴きたくなる曲なので、

ついこの曲の歌詞を取り上げたくなった。

 

本人もセルフライナーノーツの中で

「今までとは違うバラードにしたい」という想いからスタートし、

「僕のなかでは新しいバラードが完成したと思います」と語っている。

この曲で初めて作詞作曲編曲の全てをASKAさん自身が手掛けている

 

話は戻って、なぜ、ずっとこの曲に「ぼんやり感」を抱いていたかと言えば、

所在がわからないところ。

どこかはっきりしないところに漂う感じ。

つまりこの世でもあの世でもない印象を私は受けたのだ。

はっきりとらえられるのは

男女二人の恋愛が一つのモチーフになっているということ。

でもそれは一つのモチーフであって、大きくテーマとするところは

輪廻なのではないかと思う。

 

「もう少し席を詰めてくれ 座り心地にはこだわらない」

 

冒頭の1行目でまず席とは何の席だろう

どこにいるんだろうという疑問から心を掴まれる。

 

それぞれに受け取り方はあるだろうけれど

私には電車の中のシーンが浮かんだ。

ガタゴトと走る電車の中。

それは宮沢賢治銀河鉄道の世界のように、

主人公がいて、そこに絡むように

いろんな人が入れ替わり立ち替わり現れては消えていく。

その電車の席に座る間に、

自分のこれまでに経験してきた「生」の話をするような

そんなシーンをこの歌から感じた。

 

「どっちが恋に落ちた見つけたと言い合っても

前の世じゃそれが約束だったろう」

「一緒に次を思い出してみるよ」

 

愛する人(愛した人)が隣にいる。

そしてその電車で席を共にする人は、

この世からあの世に

またはあの世からこの世を行き来している人たちのように思える。

この電車の中がまさに二つの世界の間にある「汽水域」のように私には感じた。

 

また、この「一緒に次を思い出してみる」は

「水の部屋」の歌詞の

「水の部屋で今を見てる」

「やがて君とこの部屋に帰っていく」

のニュアンスに近いように思える。

この世でもないあの世でもないどちらにも定まらない場所で

次の「生」を見据えてるようだ。

 

「僕らのこと訪ねる人が来たら素敵な恋をしてたと伝えて」

 

「訪ねる人」この電車に、また別の人が来る

それはかつての「僕・僕ら」を知っている人かもしれない。

ここを訪れた人に、「僕ら」の話をするのだ。

 

「その言葉が残ればいい」

 

これは先に挙げた「同じ時代を」の

 

「君を愛し続けたすべてを明日の方へ送りたい

いつか遠い遠い未来の誰かに伝えることができるなら」

 

この部分を想起させる。

 

時代が移り変わって、自分のことを知らない時が来たとしても

この「愛する想い」があったことを伝えたい残したい。

それは現生の世界に限らないかもしれない。

魂が存在する精神的な世界かもしれない。

そんな切実な思いが込められているように思える。

 

自分が生きていたという「愛」の証を残したい、未来に伝えたい

このことはこの後も他の曲や詩に現れる。

きっとASKAさんがずっと強く願っていることなのだろうと思う。

 

そんなふうに歌詞を読みながらふと思うのは

「good time」というタイトル。

これは今生きてる自分の「生」が「good time」なのか

いろんな話を語り合ってるその時が「good time」なのか

次の「生」のことなのか

そんなことを考える。

 

 

また、この「good time」の歌詞を読むうちに思い出したことがあった。

この汽水域ともいえる境目のない世界観が何かに似ているなと。

 

SCENEの歌詞ブックレットに載っていたこの詩である

https://chaka7.hatenablog.com/entry/2019/11/25/012500

思えばこの散文詩も輪廻の世界に触れるものだろうだと思った。

生まれ来る命に語り掛けているようだ。

 

「伝える言葉はないはずなのに

交わした約束は夢じゃない」

 

そういう歌詞や詩には抽象的に効果的に「約束」という言葉が使われている気がする。

 

上に書かなかったが、曲ブリッジ部分の

 

「勝手な話に付き合わせたね

席を詰めてもらうことも約束だったかな」

 

ここは袖振り合うのも多生の縁と同じことのように思える。

 

このように作品を追っていくと

ASKAさんが歳を重ねながら、この愛と輪廻についての考えを

構築していってるんだろうということを思う。

 

その後、「心に花の咲く方へ」

「birth」SCENEⅢの散文詩

「Man and Woman」など

愛や輪廻をテーマにした作品が続けて生み出されていった。